歯科衛生士の適正
衛生士学校に通っていた頃とてもあがり症の同級生がいました。
歯科衛生士の学校ではペーパーテストの他に実技試験も行われるのですが、教員にジッと見られていると緊張していつもの力が発揮できないとか、まぁそういうのは誰でもあると思います。
私もどちらかというと緊張しやすいタイプですので土壇場であがっちゃってグダグダなる経験はたくさんしています。
あがり症の同級生をAさんとしましょう。
Aさんは普段とても大人しく仲の良いグループ以外の学生とはほとんど会話がなかったので私もそれほど親しくしていたわけではなかったのですが、授業態度も良く、レポートの出来映えもいつも高評価、筆記試験の順位もいつも上位という真面目な学生でした。
人見知りが激しくて人前で話すのが苦手なんだろうなぁとは思っていたのですが、授業中教員に突然指名されると真っ赤な顔であたふたしながら立ち上がり、涙声になって震えながら答えるのでこれはかなり重症だなぁと。
そんなAさんなので実技試験でのあがり方が半端なかった。
確か学生になって始めての実技試験はセメント練和だったと思うのですが
(教員の見てる前で粉と液を計量して練板の上でスパチュラを使ってセメントを練り上げる)
尋常じゃない震え方で粉をそこらじゅうに撒き散らしながら粉と液の入った容器をなぎ倒し、当然震えのせいで計量も正確ではなくいつまで練り続けてもドロドロのままのセメントを涙目で練り続けるという状態。
印象採得(型取り)の試験でも始めに患者の口の大きさに合うトレーを選んでから粉と水の計量、混ぜ合わせて練る、トレーに盛り付け、型取り。
という手順なのに最初のトレー合わせをすっ飛ばして練り始めた後に慌ててトレーのサイズを合わせ、その間にどんどん印象材(型取りのピンクの材料)が硬化してしまい、いざ口に入れるときにはゴム状になりまったく口に入らなかったり。
相互実習でも凄かった。
学生同士でペアを組み患者役と術者役を交互にしながらお互いの口を借りてやる実習なのですが、緊張からの震えが酷くて歯茎血塗れになった患者役が何名か出た。
成績は良いし、緊張さえなければ普段の実習ではきちんと出来ているし。
と、少しAさんを多目にみていた教員たちも患者役を血塗れにしてしまうのはさすがに見過ごせず実技で単位を落としまくっていました。
幼稚園と小学校へ指導へ行ったときの記事を書いたことがありますが
この時も声が震える上に小さすぎて何を言っているのか後ろまで聞こえず地獄のような空気で時間が過ぎていったのを覚えています。
歯科医院での臨床実習でも分からないところを自分から質問できずレポート内容があやふやだったり、何をしていいか分からず1日中立ち尽くしていたりしたようです。
結局、頭も良く本来は器用に実技をこなせるAさんは何とか卒業して資格はとったものの卒業までに就職先の内定はとれず、その後歯科衛生士として働けたのかどうかは分かりません。
歯科衛生士に向いている人、向いていない人
世間一般に歯科衛生士の仕事内容はどの程度認知されているのでしょう。
歯科医の治療補助をして型取りしたり歯石取ったりという部分しか知らないと、技術さえあれば歯科衛生士としてやっていける、ある程度器用な人は歯科衛生士に向いているし、不器用な人はあまり向いていないという認識になるでしょう。
私は不器用な人ほど歯科衛生士に向いている、不器用なのを自覚して訓練に励む人は器用な人よりもずっと上達すると教わりました。
それよりもある程度の積極性や社交性がないと歯科衛生士の仕事はきついと思います。
どちらかというと気の強い人が多い歯科衛生士の世界で、また忙しくバタバタと1日が過ぎていく勤務時間のなかで、新人のうちは先輩の邪魔にならないタイミングをみながら積極的に質問をしたり指導を仰ぐ必要があります。怖い先輩や苦手な先輩でもね。
それが出来ないと分からない出来ないことを抱えたまま歯科衛生士2年目3年目…と時間だけが過ぎていきます。
歯科衛生士の三大業務として
- 診療補助
- 予防処置
- 保健指導
の3つがあります。
保健指導は単に歯の磨き方を伝えるだけではなく時には食生活の指導や生活習慣の指導、禁煙指導も行います。
その人の生活背景をさぐって歯周病や虫歯の原因になっているものを見付け出し指導しなくてはなりません。
素直に話を聞いてくれる患者ばかりではなく中には「自分よりずっと若い、しかも女にうるさく言われたくない」と怒りだす年配の方もいます。
面倒臭そうに適当に返事をして受け流す方もいます。
どんなに技術を磨いても指導が上手くいかないと症状が改善しないことはたくさんあります。
しかしそこを分かってもらえないと「もう何ヵ月も通ってるのにどうして良くならないんだ!」という不満を買うこともあります。
歯科衛生士は確かに技術職だと思いますが、歯科医に道具を渡して、あとは黙々と歯石取ったりすれば良いだけの作業的な仕事だと思い込んで歯科衛生士を目指すと挫折するかもしれません。
よくよく考えて進路を決めて欲しいと思います。